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新年号認知症講座 認知症を判定する



社団法人「認知症の人と家族の会」顧問・老年科医 三宅貴夫さん  

 昨年4月の介護報酬改定で認知症の各種加算が新設されたことにより、「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」が従来以上にまして重視されるようになった。しかしこの基準は介護保険上必要であっても、医学的判定とは必ずしも一致しない。では認知症の有無、程度はどのようにして診断されているのだろうか。老年科医の三宅貴夫さんは簡単な見わけ方を解説し「専門医への早期受診を促すためにも介護職もある程度の知識を持ってほしい。ただ質問の仕方などには配慮が必要」と訴える。

認知症テストは自尊心に配慮を
介護職の基礎知識として長谷川式スケールは知っておいた方がよいでしょう。ただ検査するときには注意すべき点があります。
 このテストは何ができるのかをみるのではなく、何ができないかをみるテスト。できなければできないほどますます本人は落ち込みます。テストとなると受ける人は緊張しますし、失礼な質問も多い。そういうことを十分にわきまえ、少しおかしいと思ったときだけテストを行う。そのときでも、申し訳ないけれども行わさせていただきますという態度で接する必要があります。
 私が推奨する方法は長谷川式テストの1番目だけを詳しくしたものです(表)。このテストのよいところは、自分が知らないから教えてくださいという雰囲気で臨めることです。
 一般的に古く大切な記憶は残りやすく、大切でも新しい記憶ほど失われる傾向にあります。名前、年齢、生年月日、本籍は人間にとって生きていく上で非常に大切な記憶です。なかでも新しくしかも非常に重要な記憶は年齢だけであり、認知機能の判定に向いているわけです。
 まず「お年はいくつですか」と年齢を聞く。答えられないなら「でしたらお生まれはいつですか」と切り返す。長谷川式もそうですが、決して相手を問い詰めない。本人は答えられずに困っているから、答えやすい質問に移るわけです。
 それも無理なときは生まれた元号。「お生まれは昭和ですか、大正ですか、明治ですか」。必ず昭和、大正、明治の順で、決して明治からは聞かない。それが相手の気持ちに配慮した質問の仕方だと思います。さらに答えられたからといって、手をたたいたり、ほめてはいけません。答えられて当たり前のことですから。それはほめたことにならず、相手を見下していることにもなるのです。
 専門的立場から言わせれば、こうしたテストには十分な配慮が必要なのです。大きくいえば出来ないことには目をつむり、できることはしてもらうということが認知症介護の基本。それはテストの時にも心得ておかなければなりません。
 
介護の困難さは自立度では正確に反映できない
認知症の臨床的診断には日常生活上の状態がもっとも重要ですが、有名な「長谷川スケール(HDS―R)」や「臨床認知症評価法―日本版(CDR―J)」など患者の臨床的特徴で判断する方法や、CTやMRIなど画像による判断などが用いられます。介護職の人になじみ深い日常生活自立度は、認知症と診断されたのちの状態を判定するもので、診断基準には用いられません。
 医学的基準と合致しない点はともかく、自立度判定基準での評価には疑問があります。
 まず欧米には認知症の評価で自立度という尺度はありません。尺度はあくまでも生活の状態です。精神障害である認知症をもっぱら身体障害の尺度である自立度でみることはふさわしいとは思いません。自立度が高くても対応が難しいケースはいくらでもあり、さらに自立度と介護困難度は必ずしも平行しません。極端な場合、アルツハイマー病の末期のように重度で寝たきりになれば認知症独自の介護の困難さは減少し、身体介護が主流となり、かえって介護が楽になるというケースが少なくないのです。
 ⅡaとⅡbを区分する意味も分かりません。デイサービスではいい意味での緊張のために落ち着いていても、家に帰れば何でも許されるため問題行動が頻繁に出る人もいます。判定する人の主観に大きく左右されがちな項目が並んでいる点も問題です。
 介護保険上どうしても尺度が必要ならば介護の困難度で判定しなければならないでしょう。介護の困難度は認知機能の状態、介護者の理解度と対応、生活環境などいくつかの要因がからみます。良質な介護を適切にする介護報酬システムにしないと正しい認知症の介護は普及しないと思います。

認知症の医学的診断
 介護職の人が医学的に認知機能を見るだけなら長谷川式でもMMSE(Mini Mental State Examination)でも構いません。MMSEは世界標準ですが、絵を描かせたりするため長谷川式より煩雑です。
 アルツハイマー病に限りますが、国際的にも一番よく用いられているのがFAST(Functional Asesement Staging)です。生活機能の評価に基づいた検査で、アルツハイマー病のような進行性の疾患が、どのステージにあるのかを判定します。
 さらに認知症全般に適応できるものとしてCDR―Jがあります。これは日常生活を記憶、見当識、判断力と問題解決能力、地域社会の活動、家庭および趣味、身の回りの世話の6カテゴリーに分けて調べるものです。CDRも国際的に用いられている方法ですが、手法が煩雑なため介護職の方は簡単にできないと思います。
 CTなどの画像検査も認知症診断の必須検査。大まかには初診時のルーチンの検査がCT、より詳しく診るためにMRIを用いるという流れです。
 アルツハイマー病では脳の萎縮が特徴ですが、萎縮の進行と病状は必ずしも一致しません。かなりの萎縮が認められるのに症状は軽い、逆に萎縮がほとんどないのにかなり進んでいる人もいます。脳梗塞も梗塞の多さより、どこが梗塞されているかが重要です。認知機能に関する部分、例えば側頭葉に選択的に梗塞があれば、梗塞が小さくても症状が強く出ることがあります。いずれにせよ現段階では、認知症の有無や重度を示すような血糖値や血圧などの客観的な数値はありません。
       

三宅貴夫(みやけ・よしお)プロフィール
 岡山県出身。京都大学医学部卒業。船医、厚生労働省医系技官、京都堀川病院医師、太田綜合病院(福島県)内科部長、現・京丹後市弥栄病院院長、1999年から02年京都南病院老人保健施設ぬくもりの里副施設長などを経て03年から09年3月まで京都保健会盛林診療所所長。1980年「呆け老人を抱える家族の会(現:認知症の人と家族の会)」発足に尽力する。日本老年医学会等の会員。著書は「いまさら聞けない高齢者の医学知識」(日総研、06年)など、「認知症なんでも相談室」(医療企画、09年)など多数。

 
<簡単な認知症判別方法>
質問 正しく回答した場合
「お年はいくつですか」 正常またはごく軽い認知症
↓(答えられない)  
「生年月日はいつですか」 軽い認知症
↓(答えられない)  
「お生まれは昭和ですか、大正ですか、明治ですか」 中程度の認知症
↓(答えられない)  
重い認知症  
<質問するときの注意事項>
*答えられず次の質問に移るとき問いつめるような聞き方は絶対にさける
*元号は必ず昭和、大正、明治の順に聞く
*正しく答えられても手をたたいたり、褒めたりしない



 


情報提供:平成22年1月10日発行 シルバー産業新聞