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新春特別インタビュー 2010年行政の行方を聞く 介護職員の処遇改善は着実に進む



厚生労働省老健局振興課土生栄二課長
 2010年は、次回12年の介護、診療報酬ダブル改定に向け議論が始まる年。同じことは行政にもあてはまる。今回の改定を検証しながら、12年に向け今年はどのような動きになるのだろうか。介護職員の処遇改善交付金など11年度までの限定措置も影響を与えることは間違いない。福祉用具給付のあり方や安全性の担保についての検討も本格化する。業務管理体制への対応や居住系サービスの整備の課題もある。厚労省老健局の土生栄二振興課長に行政の行方を伺った。

加算取得促し、居宅介護支援の経営安定を図りたい

加算は行政の方向性という認識を
――昨年4月の改定の手ごたえはいかがですか。
土生 在宅サービス、特に居宅介護支援事業所は実態調査では非常に経営が悪かった。それだけに振興課としてもその改善に力を入れ、審議会でもその方向でご議論いただいたと思っています。
 居宅介護支援について一昨年と昨年8月実績との比較でみると、1件当たり11・9%増と、平均を大きく上回っています。訪問介護も同様に4・4%。訪問介護も経営実態調査では収支がぎりぎりの値でしたので、他サービスに比べ高い伸び率になっていることは改定の趣旨に沿ったものではないかと思っています。
 またデイサービスの伸び率は2・9%、短期入所生活介護1・7%。小規模多機能居宅介護5・4%という数字。これらも審議会でご議論いただいた方向に実績が現れていると思います。
――改定では新たに加算が40項目設けられました。加算の取得率は時とともに上がっていますが、今後の推移はどう予測されますか。
土生 普及を目指して新設した居宅介護支援の特定事業所加算Ⅱの取得率はまだ伸びていくとみています。平均11・9%という居宅介護支援の伸びは、この加算が普及しさらに高くなると思っています。それはもともと意図していたことで、できるだけ特定Ⅱの加算を取得できるよう頑張っていただきたい。。

――多くの介護福祉士が働く施設では、依然として腰痛問題が深刻です。
土生 腰痛予防を目的に機器を導入することへの助成が実施されていますが、メーカーの反響が高い。施設現場の経営者の目がこれまで以上に腰痛予防に向いているためでしょう。
        ――特定Ⅱによって居宅介護支援事業所の経営改善がはかられるわけですね。
土生 もともと特定Ⅱをはじめとする加算はサービスの質の向上が最大の目的ですが、それにしたがって経営の安定も図られると思っています。。
――特定Ⅱの算定要件を満たせないケアマネジャーが1人、2人の事業所は300単位の収入増がはかれません。3人以上が居宅介護支援事業所のあるべき姿なのでしょうか。  
土生 1人、2人の事業所を否定しているわけではありません。ただ最低3人集まることで24時間、利用者が安心できるシフトが組めますし、相互の研鑽や研修を受ける時間の確保もできると思います。規模が大きくなるほど経営が安定し、給与もアップすることはデータ上でも明らかです。
――3人以上は国が考える適正規模であり、今後もその方向性で進むわけですか。
土生 06年に特定事業所加算が導入されたときは4人以上であり、そのときすでに方向性は出ているのです。残念ながら当初の加算はハードルが高すぎたために普及しなった。改正で少し緩やかな条件で加算Ⅱを設けたわけで、方向性は一貫しています。

頑張る人に多くを配分する

――特定Ⅱの加算要件である主任ケアマネに関しては、加算目的だけの主任ケアマネの資格取得という現象があります。
土生 主任の研修を受講したらそれで終わりということではありません。例えば地域の中で主任ケアマネが集まり研鑽することが必要だと思いますし、国が研修をもっと実のあるものしていくという議論が出てくる可能性もあるでしょう。
 個人的な意見ですが知識は日頃の勉強で習得できる部分はあると思います。しかし実務的な事例に基づくマネジメントの強化は、適切なリーダーの下で研修すべきだと思います。研修の内容を変えるとするならば、より実践的な内容にする方向性はありうると思います。マネジメントは技術ですから、そういうところは重視していきたいと思っています。
――今回の加算では認知症加算や独居加算のように困難事例への対応が評価されました。医療との連携も情報提供にも加算が新設されましたね。 
土生 加算は施策の方向性です。独居加算、認知症加算もケアマネジャーさんに積極的にそういう方たちの支援に取り組んでほしいという願いからです。貴重な財源を頑張っている人に多く配分するということは当然だと思います。医療連携にしても単なる紙のやり取りではなく、きちんと病院に足を運びフェイストゥフェイスで情報交換、意見交換を行うことが大事です。
――利用者の伸びも加わり、給付額の伸び率は前年比6%の増加。それが給与の改善、基盤整備につながるとお考えですか。
土生 民主党政権になっても幸い補正予算は維持していただいたわけで処遇改善交付金、施設基盤整備の状況はこれからも注視していきます。報酬改定が処遇改善にどれだけ反映されているかは給付費分科会の宿題で、ワーキングチームが行った調査を今集計しており、おって報告します。
――民主党は介護職員1人4万円アップを打ち出しています。介護報酬改定アップ分と処遇改善交付金があり、残りは次の改定で補うと理解してよいのですか。
土生 トータル4万円というマニフェストは政治判断であり、私が言うべきことではありません。今はとにかく報酬改定による増収を賃金増につなげていただき、交付金をきちんと予定どおり執行するだけです。10月末時点の処遇改善交付金の申請率は事業所ベースで72%で、規模の大きい事業所はほとんど申請しているでしょうから、職員ベースの申請率はもっと高くなるはずです。
 日本介護クラフトユニオンが8月に実施した調査では月給ベースで約6000円のアップ。全体の平均は少し下がるでしょうが、報酬改定で5000円アップという一般的な見込みがそれほどはずれるとは思いません。処遇改善交付金とあわせて2万円程度の賃金改善は期待されます。

キャリアパスの内容への行政介入は好ましくな

――処遇改善交付金では来年度以降事業者はキャリアアップの具体的な手順を明記しなければなりませんね。それが難しく申請しない事業所もあります。
土生 キャリアパスは個々の事業者で考えていただくもので、本来あまり行政が介入すべきではないと思っています。一方で税金を元に処遇改善のための交付金を配ることは極めて異例であり、キャリアパスの導入を刺激するために要件として加えた次第です。
 キャリアパスの手法は法人種別によって考え方が違います。営利企業は実績や能力を重視するでしょうし、NPOのように互助的な法人にはそれはなじまない。大規模と中小でも意見が異なるでしょう。


ネットワーク構築し、福祉用具の安全性を迅速に確保する

利用者のフォローが調査の大きなポイント
――福祉用具の制度改定に向けて「福祉用具における保険給付のあり方検討会」が昨年夏に再開、各種調査も行われています。
土生 一昨年末の介護給付費分科会で福祉用具サービスの向上と、貸与と販売の整理を含む保険給付のあり方が大きな宿題となりました。それに答えるために状態像に応じたサービスの提供状況、メンテナンス、有効性等を調査しているところです。調査結果が出た段階で検討会を再再開します。
  ――以前一部をレンタルから販売に移すという案が出たものの当面凍結となりました。
土生 今後その可能性はないとは言えません。ただそれも含めていろいろな議論をするための実態調査です。まずはその結果を整理するのが振興課の役目。レンタル制が良いという理論的根拠は、利用者の状態に応じて製品を変更できる。さらにメンテナンスやアフターサービスを行うことで常に状態をチェックでき、事業所がフォローしやすいなどです。調査結果でそれらがきちんと行われているかは議論の大きなポイントになるでしょう。。
――貸したままフォローもされていなければレンタルにこだわらず販売でもよいとなるのでしょうか。
土生 単純に白か黒でもないでしょう。仮に利用者の状態にマッチしていない、メンテナンスも行われていないからといって、給付はどうでもよいという議論にはならないと思います。メンテが行われていなければ、メンテができる仕組みづくりという議論になるかもしれません。
――現場でそうしたテーマを担う福祉用具専門相談員のスキルアップが極めて重要になりますね。
土生 当然重要です。しかし課題の全てを福祉用具専門相談員個人で解決できるわけではありません。ケアマネジャーを中心に医師やPT、OTとも連携して、在宅サービスの中でいかに福祉用具や住宅改修を活用していくかが重要になると思います。
――個別援助計画の内容を検討するような場はあるのでしょうか。
土生 まず全体をどう進めるかです。自主的に個別援助計画に取り組んでいただくことは非常に意義があることです。そうした自主的な動きの成果をみてということになるでしょう。
――価格開示の問題で、昨年12月に全国の市町村にアンケートで実施状況を聞いておられますね。
土生 結果はいずれ明らかにしたいと思っています。価格開示が可能になったからといって、現場ですぐ実行に移すのは難しい面もあります。予算措置とか体制の整備もあります。できるだけ普及させることは当然重要ですが、少し長期的な取り組みとしてみていきます。

福祉用具の安全性に危機感抱く
――重大事故情報の公表ではこれまで福祉用具の事故で40人以上が亡くなっています。
土生 福祉用具の安全性の問題に関して私は非常な危機感を抱いています。JISへの対応以前に目の前で起こっている事故の再発防止がまずは重要。消費者庁にそうした情報が一元管理され世の中に提供されるという仕組みになりましたので、情報が提供され次第、メールで全ての関係者に速やかに周知することを緊急課題としています。各都道府県に対しても同じ情報をできるだけ早く福祉用具の事業者に提供していただくようお願いします。そのために各都道府県・市町村の取り組み状況を調査しています。
 事故情報が速やかに全部の事業所に提供されれば、同じ製品を使用している利用者の事故を防げますし、少なくとも注意喚起はできるわけです。何に気をつければ事故は防げるといった付帯情報があることもあります。ネットワークづくりを全国的な取り組みとして行うことが重要です。
 新製品に対する対応としては新JIS規格が徐々にできてくると聞いています。その歩調に合わせ、臨床面での安全性評価も段階的に実施していきたいと思っています。すぐやることと将来を見通してしっかりやるべきことの2つの軸で安全性に取り組んでいきたいと思います。

保険外のサービスを包含した高齢者住宅政策
――昨年10月末日が届出の期限だった「介護サービス事業者の業務管理体制整備」ですが、整備内容をまだ届けていない業者もありますね。
土生  未届けの事業者は速やかに届けていただきたい。決められた一律の対応ではなく、規模や法人の形態に合わせ実力に見合った対策を整えてもらえばよいのです。もともとこの制度は事業者が自主的に取り組むことを前提としたもの。法律ができたから仕方なく取り組むという姿勢ではなく、自分たちの事業所を良くしていくのだという積極的な姿勢でのぞんでもらいたいですね。
 法令遵守、労務管理や人事管理をどうすべきかはいろいろな団体が研修などを開いています。シルバーサービス振興会でも来年度からそのための管理者向け研修会を開くそうですから、活用していただきたいですね。
――昨年は「たまゆら」で不幸な出来事が起こりました。居住系サービスも含め、施設整備は今後どのように進められるのですか。
土生 そのテーマは住宅行政との連携が大きな鍵を握ります。従来国交省のみの所管であった「高齢者の居住安定確保法」が昨年の国会で厚労省も担うことになりました。今後は国交省も交え具体的に議論を進めなければなりません。
 すでに昨年の春から夏にかけて東京都にも加わっていただいて議論しているところで、その中では住まいを老人福祉の中だけで考えず、住宅行政とともに地域福祉やNPOなどの市民活動のような保険外やインフォーマルサービスも提供されるような仕組みづくりが重要とされています。
 具体的には集合住宅に住まわれている方に対する保険外のサービスも含めた地域包括事業のあり方について来年度取り組む予定です。
――どのような取り組みですか。
土生 介護保険だけでは日常の暮らし全体をカバーできません。緊急通報とか見守り、そうした保険外やインフォーマルな生活支援をどう組み合わせれば効果的なのか、全国5カ所程度で試行する事業です。その成果をもとに介護保険のあり方を考えたり、生活支援に行政がどう関わるかを提供していきたいと思っています。

実態の正確な把握が議論の前提

――今年は12年改定に向けて具体的な議論が始まる年です。最後に抱負をお聞かせください。
土生 12年は医療保険と介護保険の同時改定の年。それに加え今回の補正予算でさまざまな施策が11年度までの期間限定措置として行われております。それらがどう推移していくのかという意味でも今年は重要な年です。
 12年改定に向けての議論の道筋は政権が変り、どうなるのか行政もイメージできていないところがあります。ただどんな議論にせよ、実態をきちんと把握した上での議論でなければなりません。
 ムードだけで議論しても正しい結論は得られません。行政は実態をきちんと把握して、議論に供することが一番大事な役割だと思っています。

土生栄二(はぶ・えいじ)氏略歴
1986年厚生省入省。04年厚生労働省社会・援護局福祉基盤課福祉人材確保対策室長、05年内閣官房内閣参事官(内閣総務官室)、08年厚生労働省老健局振興課長

 



 


情報提供:平成22年1月10日発行 シルバー産業新聞